電気工事士
- 図面を現場で形にする
- 受電の瞬間に立ち会える
- 測定で安全を確かめる
- 国家資格で技術を証明
壁の裏に、暮らしの安全を通す仕事
電気工事士
電気工事士は、建物に電気の通り道をつくり、照明やコンセントを安全に使える状態へ仕上げる技術者です。完成すると配線の多くは天井や壁の中に隠れ、利用する人の目にはほとんど触れません。脚立の上での作業や工期終盤の慌ただしさもあり、体力と集中力の両方が問われます。それでも、見えない場所に責任を持つ仕事だからこそ、身につけた技術は資格とともに長く自分を支える力になるでしょう。
仕事内容
- 分電盤の据え付け、幹線や屋内配線の敷設、照明器具・コンセントの取り付けなどの電気設備工事
- 図面を読み解き、材料や工具、作業手順を決める準備
- 工事完了後の試験・点検と試験成績書の作成
主な働く場所
- 電気工事会社・設備工事会社
- 新築・改修中のオフィスビル、工場、住宅などの建設現場
- 店舗や住宅のリフォーム、設備更新の現場
電気工事士に向いている人の特徴
図面を立体で捉える空間把握力
電気工事の指示は、多くが図面で示されます。平面の配線図を見ながら、天井裏のどこを通し、どの高さに器具を付けるかを頭の中で組み立てなければなりません。ダクトや配管など他の設備とぶつからない経路を考えるのも、電気工事士の役割です。製図やCADに触れた経験がある人なら、図面を立体に起こす感覚をつかむのは早いかもしれません。最初は戸惑っても、現場で図面と実物を見比べる回数が増えるほど、想像と現実のずれは小さくなっていきます。
手間を惜しまない慎重さ
電気は目に見えず、ミスがあっても外から見ただけではわかりにくいもの。結線を一つ間違えれば、通電した瞬間にブレーカーが落ちたり、後々の漏電につながったりする恐れがあります。だからこそ、作業前には検電器で電源が切れていることを確かめ、作業後には端子の締め付けを見直す習慣が欠かせません。派手さはなくても、この一手間を毎回続けられる人が現場で信頼されていきます。高い場所や狭い空間での作業も多く、自分の足元や体勢に気を配れることも大切な素質です。
他職種と呼吸を合わせる調整力
建設現場では、大工や内装、空調・配管など多くの職種が同時に動いています。天井を閉じる前に配線を終えておかなければ、内装の工程を止めてしまうことも。職長や他職種の担当者と「いつ、どこまで進めるか」をすり合わせる会話が、仕事の質を左右するのです。接客や営業で相手の都合をくみ取ってきた経験は、こうした調整で生きてきます。住宅の改修工事では、住んでいる人に作業内容を説明する機会もあり、伝える力が役立つ場面は少なくありません。
電気工事士の職業データ
第二種電気工事士/第一種電気工事士
- 配線図・施工図の読解力
- 電気の基礎理論と関連法令の知識
- 工具・測定器を扱う技能
- 高所や狭い場所での安全な作業
- 他職種との調整力
電気工事士の主な業務
AI生成のイメージです。
配管と配線
新築の建物では、躯体工事と並行して電気工事が進みます。コンクリートを流し込む前に、床や壁の中へ電線を通すための配管を埋め込んでおくのが最初の大仕事。後から位置を変えるのは難しいため、図面と照らし合わせながら1本ずつ位置と長さを確認していきます。ここでの小さなずれが、数か月後に器具の位置のずれとして表れることもあるからです。内装工事が始まると、今度は天井の上や壁の中にケーブルを通す「入線」の出番です。照明やコンセントの多い建物では、行き先ごとに分けられたケーブルが分電盤へと集まっていきます。電線の太さや本数は回路ごとに決まっており、取り違えないよう札を付けて管理します。図面どおりに通せない場所が出てくれば、職長や他職種と相談して経路を組み直します。何もなかった空間に、少しずつ電気の通り道が張り巡らされていく様子は、この工程ならではの面白さです。
器具の取り付けと結線
配線が終わると、分電盤や照明器具、コンセント、スイッチなどの取り付けに移ります。インターホンや放送設備、防災・防犯設備の配線を担うこともあり、扱う機器の幅は思った以上に広いかもしれません。器具の取り付けは、天井や壁の仕上げが終わったあとに行うのが一般的です。きれいに仕上がったクロスや天井材を汚したり傷つけたりしないよう、作業には細心の注意を払います。分電盤の中では、どの回路がどの部屋につながっているかがひと目でわかるよう、線をそろえて表示を付けていきます。中心となるのは、電線の被覆をむき、器具の端子やコネクタに確実につなぐ「結線」です。1か所の緩みが発熱の原因になり得るため、差し込みの深さや締め付けを指先で確かめながら進めるのが基本。結線は数をこなすほど手が覚え、速さと正確さがそろっていきます。一方で、同じ照明器具でも天井の材質や下地の位置によって取り付け方は変わり、毎回同じやり方が通用するとは限りません。そこに職人としての工夫が入り込む余地があるのです。
試験と試験成績書
工事が終わると、電気を流す前に試験を行います。スイッチを入れて明かりがつくかを見るだけでは、配線の安全までは判断できません。測定器を使って絶縁の状態や回路のつながりを調べ、図面どおりに配線されているかを一つひとつ点検していく工程です。測定した数値は試験成績書にまとめ、発注者や元請けに提出します。試験成績書は、その建物の電気設備が基準を満たしていることを示す記録として残ります。地味に見えても、ここで不具合を拾えるかどうかが、引き渡し後の安全を左右するといえるでしょう。数値がわずかに基準を外れたときこそ、原因を探る力が試されます。天井裏のどこかで被覆が傷ついていないか、器具の内部で線どうしが触れていないか。仮説を立てて1か所ずつ調べ、原因を突き止めた瞬間に、謎解きに近い楽しさを感じる人も少なくありません。改修工事では古い配線図が残っていないこともあり、測定と推理の力がいっそう問われます。経験を重ねるほど、測定値の小さな違和感から不具合の場所を絞り込めるようになっていきます。
見積と施工図づくり
経験を積むと、現場作業だけでなく準備の仕事も増えていきます。現地の状況を見て必要な材料を拾い出し、見積書や施工図、完成図を作成するのもその一部。施工図は、設計図をもとに配線ルートや器具の位置を現場で施工できる精度まで詰めた図面で、他職種との打ち合わせにも使われます。ケーブルの長さや器具の数を読み違えると、材料が足りずに工程が止まったり、余って利益を削ったりしかねません。数字や書類を扱ってきた事務職の経験は、こうした拾い出しや書類づくりで強みになるでしょう。図面をCADで作成する会社なら、パソコン操作に慣れていることも武器になります。職長になれば、その日の作業範囲を決め、数人のグループに指示を出す立場です。若手の作業を見守りながら、安全と工程の両方に目を配るのは簡単ではありません。それでも、自分の段取りどおりに班が動き、予定の範囲を終えられた日には、現場を回す側の面白さが見えてくるはずです。
電気工事士の
1日の仕事の流れ
新築オフィスビルの現場に到着。全体朝礼のあとは、職長と図面を広げて今日の作業範囲のチェックを行い、高所で作業する場所や開口部の位置を指さし、危険のポイントを声に出して共有します。
3階では、天井ボードが張られる前に配線を終える必要があります。脚立に上がり、ダクトとの隙間を探りながらケーブルを送り込んでいく作業。行き先を書いた札を1本ずつ確認し、分電盤へ向けて束ねていきます。
休憩所で弁当を広げると、隣には内装の職人たちの姿。午後から3階の天井を張り始めると聞き、午前中に入線を終えられたことに胸をなで下ろします。
午後は、天井の仕上げが終わった5階へ移動。照明器具を1台ずつ取り付け、電線を端子に差し込んでいきます。真新しい天井に指の跡を残さないよう、こまめに手袋を替えるのも大事な気配りです。
先週までに器具付けを終えた4階で、職長と絶縁抵抗を測定。1回路だけ低い値が出て天井裏をのぞくと、ビスが電線の被覆を傷つけていることがわかります。直して測り直し、数値がそろったのを見届けてから片付けに入るのが今日の締めくくりです。
電気工事士のミッション・社会での役割
明かりとコンセントの向こうにある安全
スイッチを押せば明かりがつき、コンセントに挿せば機械が動く日常。その当たり前は、壁や天井の中で正しくつながれた配線に支えられています。配線に不備があれば、漏電や火災といった事故につながりかねません。病院や工場のように、電気が止まれば人の命や生産活動に直結する施設もあります。電気工事士は、人目につかない場所で安全をつくり、社会の動きを止めないための土台を整えている存在といえるでしょう。
電気工事士のリアル
工事の終盤、電力会社からの電気を建物に受け入れる「受電」の日を迎えます。数か月かけて配管を埋め、配線を通し、器具を付けてきたフロアに、初めて電気が届く日。分電盤のブレーカーを上げると、天井の照明が順に灯り、換気扇も動き出します。壁の中に積み重ねた作業が、ここで初めて形になるのです。
電気工事は、内装や設備の工事と重なりながら、建物の完成直前まで続く仕事です。週休二日制の会社が大部分とはいえ、竣工が近づくと作業が立て込み、工事の進み具合によっては土曜・日曜が休みになるとは限りません。電気工事業の就職3年後離職率は、2018年に公表されたヒアリングにもとづく推計で20〜40%と、他産業よりやや高い水準でした。ただ、材料を前倒しでそろえ、他職種と早めに予定をすり合わせておけば、終盤の慌ただしさは和らげられます
電気工事士の将来性
AI生成のイメージです。
AI時代の需要と、広がるキャリアパス
社内キャリアパス
入社直後の仕事は、材料の運搬や先輩の補助が中心です。電気工事士法で有資格者に限られた作業は担当できないため、多くの人が働きながら第二種電気工事士の取得を目指します。建設キャリアアップシステム(CCUS)の能力評価では、就業3年と第二種電気工事士の免状などでレベル2。就業5年で第一種電気工事士の免状と職長または班長として1年の経験があればレベル3、就業10年で登録電気工事基幹技能者などの資格と職長経験3年があればレベル4と評価されます。第一種電気工事士の免状交付には試験合格に加えて3年以上の実務経験が必要なため、入社3〜5年目が取得の山場といえるでしょう。職長を任される時期は会社によって差があり、大企業などでは15〜20年の経験を積んで職長になる例もあります。
| ステップ | 役職 | 平均年収目安 |
|---|---|---|
| 入社1年目 | 見習い(CCUSレベル1) | 393〜563万円 |
| 入社3年目 | 第二種電気工事士(CCUSレベル2) | 454〜636万円 |
| 入社5年目 | 第一種電気工事士・班長(CCUSレベル3) | 500〜761万円 |
| 入社10年目 | 職長・登録電気工事基幹技能者(CCUSレベル4) | 588万円〜 |
社外キャリアパス
電気工事の現場経験は、建物の電気設備に関わるさまざまな仕事へつながります。施工管理の道では、電気工事施工管理技士などの技術検定の受検資格が2024年度から見直され、1級の第一次検定は19歳以上(当該年度末時点)であれば受検できるようになりました。第二次検定には第一次検定合格後の実務経験が求められるため、現場で積んだ年数が受検の条件に直結します。電気主任技術者などの資格を取ってビル管理技術者や電気工事管理者の仕事に転じる人もいれば、独立して電気工事業を営む人もいます。配線や機器の仕組みを手で覚えている経験は、設計や保守の仕事でも生かせるでしょう。どの道に進むにしても、第一種電気工事士まで取っておくと選択肢は広がりやすくなります。
- 電気工事施工管理技士(施工管理職):作業手順を体で知っている経験が、工程や品質を管理するときの判断材料になる
- 電気主任技術者(電気保安):配線や機器の構造への理解を、設備の保安監督に役立てられる
- ビル・工場の設備管理:測定器の扱いと不具合の原因を探る力を、日常の点検や故障対応で発揮できる
- 電気設備の設計:現場の納まりを知る経験を、施工しやすい図面づくりに反映できる
- 電気工事業での独立開業:見積から施工、試験までを一通り経験していることが、自ら仕事を受ける際の強みになる
市場価値
電気工事作業員などの職業分類で見ると、ハローワークの有効求人倍率は令和7年度で3.84倍。求職者1人に対して4件近い求人がある計算です。求人賃金(月額)も令和7年度は28.4万円と前年度より0.8万円高く、令和8年6月には29.1万円となっています。一部の大手電気工事会社は2025年5月、駅前の大規模再開発やデータセンターでの活発な建設投資を背景に、設備工事の需要が拡大していると公表しました。担い手の面では、高齢層の退職により第一種電気工事士が2020年前半に想定需要約20.4万人に対して2万人程度不足するという、2018年3月時点の国の推計もあります。資格を持ち現場で動ける人材は、今後も各社から求められる状況が続くと考えられます。
AI時代における価値の再定義
書類や図面の仕事には、AIが入り始めています。2026年8月には、燈と東光電気工事が、過去の施工図面を画像から検索でき、工事概要のたたき台を対話型AIで作れる施工計画書作成の支援システムを共同開発しました。現場の作業では、2022年にヒルティが、BIMデータをもとに天井の墨出しや穴あけを行う半自律型ロボット「Jaibot」を発表。機械・電気・配管の設備工事向けで、作業者が遠隔で操作する仕組みです。こうした技術が広がれば、書類づくりや頭上での反復作業の負担は軽くなっていく可能性があります。一方で、改修工事で古い配線をたどる判断や、測定値から不具合の原因を突き止める作業、通電前の最終チェックには、現場経験が欠かせません。AIやロボットに任せる部分と、自分で判断する部分を見極められる人が、これからの現場の中心になっていくでしょう。
関連職種・他職種との違い
- 配管工:図面を読み、建物の中に設備の経路をつくる技能 / 扱うのは給排水や空調などの配管で、電気の配線や結線は手がけない
- 電気工事施工管理技士:電気設備工事の工程・品質・安全に関する知識 / 現場全体を管理する立場で、作業を自ら行うより職人や協力会社を動かす役割が中心
- 電気主任技術者:電気設備の仕組みと保安に関する知識 / 事業用電気工作物の保安を監督する立場で、工事を担う電気工事士とは役割が分かれる
- ビル設備管理技術者:測定器の扱いや故障の原因を探る技能 / 完成後の建物で点検と保守を続ける仕事で、新たに設備をつくる工事とは関わる時期が異なる
電気を、怖がりながら扱える人へ
「電気は苦手だから」と、最初から選択肢を外していないでしょうか。現場で求められるのは、難しい理論を語る力より、電気を正しく怖がり、点検を一つずつ重ねる姿勢のほう。資格の勉強は、働きながら始めても遅くはありません。飲食店で厨房を回していた人、自動車整備士、工場のライン作業員、事務職など、入り口は実にさまざまです。部屋の明かりがつくたびに、その裏で働く配線を想像してしまうなら、もう入り口に立っています。